トランプ前米大統領の起訴前の2週間、トランプ氏は自身の逮捕をまず予想した。
しかし、間もなく訴追は免れると踏むようになるなどめまぐるしいものとなった。
この事情に詳しい関係者によると、ニューヨーク州マンハッタン地区の
ブラッグ検事
が大陪審が起訴に踏み切ると、トランプ氏や同氏に助言する側近は不意を突かれた。
側近のなかでは家族と向こう数週間の春休みの旅行を計画していた者もいたという。
このため、起訴に対応するため予定を即座にキャンセルする必要に迫られた。
トランプ氏は3月25日の集会後、機内で記者団に対し
「立件はもう断念したんだと思う。私の理解では、取り下げられたと思う」
と述べていた。
また、同氏の広報担当、スティーブン・チェン氏もFOXニュースに対し、
の案件は「党派的な魔女狩りだと誰もが分かっているので、取り下げられた」と話していた。
また、トランプ氏はソーシャルメディアで
「マンハッタンの検事のオフィスは完全に混乱している」
と自己中心的に喧嘩を売る発言を繰り返してきた。
また、トランプ氏は3月18日の朝ソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に
3月21日に逮捕される見込み
だと投稿し、支持者に抗議を呼び掛けたトーンとは様変わりしていた。
この投稿直後の裁判所付近はテレビ局の車両やカメラマン、記者でごった返すようになっていた。
トランプ陣営の自信の一部は
ロバート・コステロ弁護士
がトランプ氏の代理人として大陪審に20日に提出した資料やプレゼンテーションから来ていると見られる。
連邦検察当局の一員を務めたこともあるコステロ氏は、トランプ氏の元顧問弁護士として「フィクサー」とも呼ばれた
マイケル・コーエン元受刑者が
信頼できる証人にはなり得ないことを示すとする大量の電子メールやメモを持ち込んで、コーエン元受刑者からの情報の信頼性を低下させる取り組みが成功したと判断していたともいえる。
そのため、コステロ氏は大陪審での説明後のインタビューでも、「一つ不可能なのは、マイケル・コーエン氏の言葉を頼りにすることだ」と述べていると強く主張して世論を誘導してきたようにも見える。
今回の起訴の中心部分にはトランプ氏と不倫関係にあったとされる元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんへの
口止め料支払い指示
があり、これを支払ったコーエン元受刑者は重要な証人となるためだ。
ただ、同受刑者は議会偽証のほか、同支払いに絡む選挙資金法違反で既に有罪を認めている。
、再び証人台に立たせることには疑念がある。さらに、服役中の時間をトランプ氏を攻撃する著書やポッドキャストに費やしてきた背景もある。
コステロ氏が大陪審に姿を見せた翌日、トランプ氏は逮捕されず、起訴が迫っているようにはもはや見えなくなっていた。
このころ、ブラッグ検事側もさまざまな政治の領域から批判を招いていた。
特に左派系の法律専門家らは立件には根拠が弱いのではないかと表明していた。
また、トランプ氏が2020年大統領選で敗北したジョージア州での投票結果を覆そうとしたとされる問題へのアトランタ地区検事の捜査や、21年1月の連邦議会議事堂襲撃事件への同氏の役割や大統領任期終了後の機密文書の扱いを巡る特別検察官による捜査に悪影響を与える可能性を懸念した。
さらに週が明けると、大陪審が4月に2−4週間の休廷期間に入るとの報道があった。
この流れからトランプ氏の起訴はますます遠のいたように見受けられた。
このため、ブラッグ検事のオフィスから大陪審がある建物に検事らがいつも通り歩いて入った3月30日午後までには、メディアの熱狂は冷め、数人の記者とカメラマンが残っているだけだった。