ストーム・シャドウ(Storm Shadow SCALP-EG)
フランスと英国が開発した空中発射巡航ミサイル。
マトラ・デファンス(MBDA)によって製造され、フランスと英国、イタリアが運用している。
フランスがつけた名称がSCALP-EG(Système de Croisière Autonome à Longue Portée – Emploi Général)で、ストーム・シャドウはイギリスがつけた名称。
フランスのマトラ・デファンスが開発した
アパシュ対滑走路ミサイル(MBDA アパッチ)
の射程を延伸させるため、アパッチCを開発、その後、SCALPへと名称を変更した。
1996年6月25日にフランス空軍がSCALP-EGの名称で採用、翌年2月11日に開発と生産の契約が締結された。
マトラ・デファンス社はブリティッシュ・エアロスペース社(BAe)のミサイル関係部門と合併し、マトラ BAeダイナミクス社が創設された。
1998年、フランスは500発のSCALPを発注し、2000年にフランスのミラージュ 2000NでSCALPの試射を行った。
翌年の5月5日には英国のマルチロール戦闘機
トーネード
がストーム・シャドウの試射を行い、2002年にイギリスへ納入された。
・基本構造
射程は、本国仕様で560km、輸出仕様で250km以上。
ステルスミサイルではないが、先端が尖っているためレーダーの反射が抑えられ、地上から20〜30m上の低空を1000km/hほどで飛行する。
誘導方法は、GPS誘導、慣性航法誘導、地形プロファイルマッチング、赤外線画像誘導の4つある。
ただ、攻撃目標の設定は発射前に行う必要があり、発射後に変更することはできない不便さはあるが、逆に、ミサイルが発射された後、GPSジャミングで妨害されても、地形プロファイルマッチングを主とした誘導に切り替わることができる。
万一、地形プロファイルマッチングも機能しなくなっても慣性航法誘導で飛び続ける。
目標に近づくとミサイルは一旦、上昇して再度機首を下げて目標を補足するホップアップ機動を描く。
また、ホップアップ中、先端のカバーが外れ
赤外線画像誘導
に移るため、移動目標であっても補足範囲内であれば命中は可能となる。
ただ、ミサイル到達前に目標が補足範囲外へ移動した場合は攻撃失敗の可能性が高まる。
赤外線画像で得られたデータから目標への攻撃中止が判断された場合、ミサイルは事前に設定された墜落ポイントへ方向を変えて墜落させることも可能だ。
・弾頭部
450kgのブローチ弾頭(二重弾頭で、一段目が土やコンクリートを貫通し、二段目で目標に打撃を与える方式。)を備え、 この弾頭により、強固なコンクリート製の建物やバンカー、地下司令部などへの攻撃が可能となる。
また、対艦攻撃もできるので、敵海上戦力に打撃を与えられる。
・発射装置
英国仕様は航空機により空中から発射されるが、フランス仕様では大型艦艇や潜水艦からも発射できるもの。
2023年、英国はロシアによる侵攻が続くウクライナに対してストーム・シャドウを供与、実戦投入が行われた。
同年5月17日、ロシア側はストーム・シャドウ7基を迎撃したと発表した。
同月19日、マリウポリの空港で爆発があったほか、同月21日にはベルジャンシクのロシア軍部隊の本部が攻撃を受けた。ロシア側は、これらの被害をストーム・シャドウによるものと発表している。
同月28日、ウクライナ国防相は、供与されたストームシャドウについて
「発射された100%が目標に命中した」
ことを明らかにした。
英国のウクライナへの援助で、政治的なバランスを重視するフランスの
エマニュエル・マクロン大統領
が同年7月11日、リトアニアで開幕した
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議
の会場に到着した際、「スカルプ(SCALP)をウクライナに供与する」と発表した。
ウクライナはミサイルの運用に当たり、手持ちの戦闘爆撃機Su-24MとSu-24MRに発射機能を付加した。