大倉 孫兵衛（おおくら まごべえ） 日本陶器合名会社（現在のノリタケカンパニーリミテド）、大倉陶園の設立など日本の陶磁器産業に多大なる貢献があった。

大倉 孫兵衛（おおくら まごべえ）

　　　天保14年4月8日（1843年5月7日） - 大正10年（1921年）12月17日

　幕末明治から大正にかけての実業で家業の

　　　絵草紙屋(大衆本　絵入り娯楽本、赤本・黒本・青本・黄表紙・合巻の総称)

から独立して絵草紙屋・萬屋を開店した。

　その後に大倉書店、大倉孫兵衛洋紙店（現・新生紙パルプ商事）を設立した。

　また、義理の兄である

　　　森村市左衛門

との出会いから日本陶器合名会社（現在のノリタケカンパニーリミテド）、大倉陶園の設立に参加し日本の陶磁器産業に多大なる貢献をした。

　天保14年（1843年）江戸・四谷伝馬町の絵草紙屋・萬屋（2代目大倉四郎兵衛）の次男として生まれた。

　日本橋1丁目で絵草紙屋を手伝っていた孫兵衛は、開港して間もない横浜に出かけては外国人を相手に錦絵を売って生活していた。

　横浜で舶来品を仕入れて江戸の武家に売り歩いていた森村市左衛門と出会い、何度か合ううちに二人は意気投合し兄弟のような付き合いになった。

　そのような付き合いをするうちに孫兵衛は市左衛門の勧めで異母妹ふじと結婚し、これを機に兄から独立し同じ屋号の絵草紙屋・萬屋を開店した。

　主に豊原国周、昇斎一景、3代目歌川広重、落合芳幾、武田幾丸、月岡芳年、歌川芳虎、4代目歌川国政、楊洲周延、小林進斎、井上探景、安達吟光、東洋斎斐章らの開化絵、戦争絵などを出版した。

　ただ、血みどろ絵のようなゲテモノ作品は版行しなかったと言われている。

　なお、万孫とも号し、日本橋通町1丁目、神田区通1丁目19番地で幕末から明治にかけて営業した。

　
　次第に、絵草紙屋・萬屋を開店した孫兵衛は同業者の中でも出来の良い錦絵や地図を取り扱い注目を受けるようになった。

　自らニュース報道としての錦絵を続々と刊行し出版社としての歩みが始まった。

　明治7年（1874年）に日本橋区通1丁目に絵草子屋兼出版業の

　　　錦栄堂

を開店し、明治8年（1875年）9月15日、大倉書店を創業、明治10年には日本橋区通1丁目19で営業していた。

　明治・大正期における日本を代表する出版社として葛飾北斎や歌川広重の画集をはじめ、「ことばの泉」（国語辞典）、「独和大辞典」のほか、夏目漱石の初めての単行本「吾輩ハ猫デアル」も大倉書店から刊行した。

　出版社として道を着々とたどる大倉書店は義弟の

　　　大倉保五郎

に譲り、その後も隆盛を極めた。

　しかし、大正12年（1923年）9月1日の関東大震災で全焼という大打撃を受けて復興にいたらず、更に昭和27年（1952年）にも火災に遭うなどしてついには廃業してしまった。

　
　大倉書店で使う輸入洋紙を仕入れに横浜に赴いた孫兵衛は

　　　日米通商条約

で為替の比率が日本に不利なままであったことなどで従事する外国人商人が暴利を貪り、その利ざやの大きさに驚かされた。

　（今で言えば、円安で海外からの観光客が跋扈し、日本製品をタダ同然の価値として買い漁る姿と同じようなもの。）

　そのため、洋紙の販売も手がけるようになり大倉孫兵衛紙店なるものを創業した。

　明治22年（1889年）店名を「大倉孫兵衛洋紙店」と改めた。

　当時、第2次の製紙会社設立ブームが起こり富士製紙、千寿製紙、東京板紙、四日市製紙など洋紙の国内生産が激増していった時期と重なる。

　折しも操業が始まろうとしていた富士製紙の大株主として森村市左衛門が出資していたことから、孫兵衛に紙を扱って欲しいとの依頼があり引き受け洋紙店の基盤が出来て行った。

　なお、富士製紙は1933年（昭和8年）に初代王子製紙に合併されて消滅したが現在でもなお新生紙パルプ商事として歴史は続いているという。

　義兄弟となった孫兵衛は、森村市左衛門が明治9年（1876年）に設立した貿易商社「森村組」に初期の段階から参加していた。

　明治37年（1904年）に市左衛門、飛鳥井孝太郎らとともに日本陶器合名会社を設立、製陶業の発展に尽力した。