ウクライナ軍が公開した新たな動画には、
FPV(一人称視点)ドローン(無人機)による待ち伏せ攻撃
の様子が収められている。
この戦術はロシア軍陣地の後方の補給ルートを走る車両を攻撃するために用いられており、
兵站の妨害
特定の人物を狙った暗殺(ターゲティッド・キリング)
の手段としても使われている。
このドローン攻撃の戦術では、通常20分足らずしか飛行できず、目標を待ち構えることが難しいという
FPVドローンの欠点
を補うために採用され、同時に、まったく新しいタイプの戦争に道を開いた。
ドローンを利用した「待ち伏せ攻撃」というのは、実は2カ月ほど前、ロシア側のソーシャルメディアで共有された、
ドローンを利用した「待ち伏せ攻撃」というのは、実は2カ月ほど前、ロシア側のソーシャルメディアで共有された、
ロシア軍の戦術
について警告するウクライナの
戦術マニュアル
のなかで強調し記述され、ウクライナ軍自体がどのように適用しているかに注目したい。
公開された1本目の動画には、ロシア軍のバギーに対するウクライナ軍のFPVドローンによる一連の攻撃の様子が映っている。
車両は、不足する軍用車両の代わりにロシア軍が使うことが多くなっている
中国製デザートクロス1000-3全地形対応車(ATV)
と見られる。
最初、FPVドローンは道路脇の雪の上に半ば埋もれた状態で駐機している。
モーターは切られ、機体はカメラが道路を見渡せる向きになっている。
ロシア軍のATVが道路を通り過ぎた直後、0:04で数秒後の空中からの映像に切り替わり、ドローンはATVを追跡し始めた。
ドローンはいったんATVを追い抜いたあと旋回し、車両の風防に突っ込んでいる。
動画は2機目のFPVドローンからの映像に切り替わった。
ATVに接近していくその映像によると、車両は爆発の影響で一部が焦げただけで、大きくは損傷していない。
乗員の姿の映像はないものの、遺棄されたこの車両に2機目も突っ込んだ。
次に3機目のFPVドローンからの映像が映し出され、ドローンはロシア軍のATVが大破して炎上しているところを確認している。
このドローンの操縦士は乗員を探し出そうとした可能性もある。
積もっている雪の深さからすると現場から逃げた搭乗者の逃走した足跡をたどれそうだが、その様子は映っていない。
動画から明らかなのは、3機のFPVドローンが
すべて待ち伏せ攻撃エリアに配置
されていたこと、そして操縦士たちが、
兵員も貨物も運んでいなかった低価値目標
にドローン3機を費やす価値があると判断していたことに注目が集まっている。
ロシアでデザートクロス1台の調達コストは210万ルーブル(約330万円)程度にすぎない。
ただ、FPVドローンは1機500ドル(約7万6000円)ほどだ。
2本目の動画では、
ロシア軍の補給トラック
を狙った待ち伏せ攻撃の3つの事例がまとめられている。
最初の2例では、ウクライナ軍のFPVドローンは草むらに潜んで攻撃対象の到来を待ち構えている。
車両が現れるとローターが起動し、画面には
「ARMED(起爆準備)」
という表示が出た後、ドローンが車両の追跡に入った映像に切り替わり、画面には
「BOMB ARMED」(爆弾起爆準備)
と表示され、2段階の起爆プロセスになっているシステムのようだ。
3例目では、道路脇の草むらから離陸したドローンが道路の上を飛んでいき、前を走っていた目標車両を捉える。
このケースでは、車両が少し前に通り過ぎていた。
ドローンの操縦士が何らかの理由でいったん待ったか、あるいは
偵察ドローン
の操縦士から通知を受けたのかのいずれかで起動させている。
3つの攻撃すべてで、ウクライナ軍のドローン操縦士は車両の後方から攻撃する手法が取られた。
どれも操縦席の後方に照準を合わせていた。
おそらく運転手を狙ったもので、素早い動きを確保するため、FPVドローンは搭載弾頭を軽量化させて破壊力が小さいので、それ以外の方法ではトラックを止めるのは難しい。
3本目の動画では、ウクライナ南部ザポリージャ州のロシア支配地域で、ロシア軍の「オセチア突撃大隊」の
3本目の動画では、ウクライナ南部ザポリージャ州のロシア支配地域で、ロシア軍の「オセチア突撃大隊」の
セルゲイ・メリニコフ参謀長
を狙った様子とされるものである。
ウクライナ国防省情報総局(HUR)がメルニコフの移動ルートやスケジュールに関する詳細な情報を入手して待ち伏せ攻撃を計画した。
動画では、1本目の動画のバギーに対する攻撃の場合と同じように、メリニコフを乗せた車の前方に回り込んだFPVドローンが、車両のフロントガラスめがけて飛んでいく。
ドローンを確認した運転手は回避しようとハンドルを切り、車は路肩に乗り上げて横転した。
ドローンは再び旋回し、止まった車両のフロントガラスに真正面から激突した。
その結果までは示されていないが、HURではメリニコフと運転手はともに死亡したと確認している。
このFPVドローンに関しては、事前に路傍に配置されていたのかは軍機密情報であり明らかにしていない。
ただ、戦術やドローンの待機方法などがほかの攻撃とよく似ているので、その可能性は非常に高い。
ドローンを用いたこれらの待ち伏せ攻撃では公開されている動画では、FPVドローンが待ち伏せ地点にどのように到達したのかは軍事機密情報であり、当然のことながら明かされていない。
ドローンを用いたこれらの待ち伏せ攻撃では公開されている動画では、FPVドローンが待ち伏せ地点にどのように到達したのかは軍事機密情報であり、当然のことながら明かされていない。
機敏に攻撃するために大きな問題となるのは、重量制限もあるバッテリーの残量だ。
各ドローンは、自力で待ち伏せ地点まで飛んでいき、さらに待機中と攻撃のための電力も残す必要もある。
一方で、これらのドローンを待機場所まで別のドローンで運んで行った可能性もある。
ウクライナで軍向けにドローンの資金調達や開発・製造を行っている団体、
ワイルド・ホーネッツ
の多用途大型ドローン「クイーン・ホーネット」は、FPVドローンを運搬したり、制御範囲を広げる空中の中継基地の役割を果たしたりすることもできる。
英国のキア・スターマー首相は最近、ウクライナを訪問した際、ボロディミル・ゼレンスキー大統領から
固定翼機型と大型の回転翼機型
という2種類のFPVドローン運搬機を披露された。
ウクライナ軍はドローンを使って、ロシア軍陣地の後方の道路などに
ウクライナ軍はドローンを使って、ロシア軍陣地の後方の道路などに
対戦車地雷
を設置するようになっている。
こうした敷設地雷の除去は目視されやすく比較的容易となる。
ただ、ドローンの場合は道路から少し離れた場所に配置したり、場所を移動させたりすることが可能であり、撤去はもっと難しくなる。
待ち伏せ攻撃ドローンの配置は、米国の
VRリハブ(VRR)社
が開発した「HellHive(ヘルハイブ)」のようなシステムの実戦配備に向けた一歩になる。
HellHiveは、複数のFPVドローンが入ったボックスを数日ないし数週間前に配置しておき、必要になった時点で起動することが可能だ。
このボックスの中のFPVドローンはほぼ自律的に飛行することが可能で、必要なのは
偵察ドローンの操縦士
が目標を指定して発進させることだけに絞られる。
効果的な運搬ドローンがあれば、待ち伏せ攻撃ドローンはどこにでも配置できる。
たとえばウクライナの
固定翼機型長距離ドローン「リューティー(獰猛)」
は、航続距離が1600km以上あるものだ。
リューティー自体は、もともと、爆発物を搭載して目標に突っ込むのでなく、FPVドローンを運んでロシア軍の航空基地の周辺などにばらまき、それらのドローンに数日間潜伏させてロシア軍の作戦を妨害させる、といった運用が考えられている。
別のセッティングでは、FPVドローンを攻撃準備として有利な場所に潜ませたうえ、屋外や屋内にあるロシア軍の高価値目標を狙うことも可能だ。
たとえば、ロシア軍の高官らの指揮所がある掩蔽壕の周囲に配置すれば、そこへの出入りを危険なものにできる。
こうした動画が示しているように、
ドローンによる待ち伏せ攻撃
という新たな戦術が登場したが今後ドローンを使用した攻撃戦術がどこへ行き着くのかは次のステップになる。