チェーザレ・テラノーヴァ（Cesare Terranova）反マフィアの姿勢で知られていたシチリア島出身のイタリア人裁判官

チェーザレ・テラノーヴァ（Cesare Terranova）

　　　1921年8月25日 - 1979年9月25日

　シチリア島出身のイタリア人裁判官、政治家で、反マフィアの姿勢で知られていた。

　1958年から1971年まで、テラノーヴァはパレルモ検察庁の検察官を務めた。

　彼はマフィアとコーザ・ノストラの金融活動を本格的に捜査した最初の人物の一人である。

　彼は1979年にマフィアに殺害された。

　チェーザレ・テラノーヴァは、反マフィア・プール（Antimafia Pool）というグループを創設した

　　　ロッコ・チンニチ判事

の前任者です。

　チンニチ判事は緊密に協力し、情報を共有することで責任を分散させ、テラノーヴァのように一人の人物が

　　　犯罪組織全体

の記憶に残され、

　　　孤立した標的

となるのを防いだ。

　チェーザレ・テラノーヴァは1921年8月25日、シチリア島パレルモの南東約70kmに位置する小さな町、ペトラリア・ソッターナで生まれた。

　第二次世界大戦の勃発により、彼の学業は中断され、1942年11月から翌年7月まで、この戦争に個人的に従事した。

　ただ、それは過酷で困難な時期であり、

　　　北アフリカの捕虜収容所

での投獄と拘留が彼を特徴づけたうえ、1945年10月まで母国に送還されなかった。

　帰国後、彼はメッシーナ大学に入学した。

　当時、彼の父親は同大学で判事に任命されていた。

　彼は1946年に司法官となり、1958年にはパレルモ裁判所の審査局長に就任した。

　当時、検察は、いわゆる教示段階である尋問段階と、起訴段階に分かれていた。

　テラノヴァは、数多くのマフィアを裁判にかけ、投獄する手助けをした。

　彼は、1960年代初頭の

　　　第一次マフィア抗争

における多くの著名なマフィアの関与を​​問われた「114人裁判」において中心人物であった。

　この抗争は、1963年6月30日のチャクリ虐殺で終結し、1965年5月31日に彼は114人のマフィアの起訴を命じた。

　テラノヴァの努力にもかかわらず、1968年12月22日にカタンザーロ裁判所が下した「114人裁判」の判決では、114人の被告のうち10人を除く全員が無罪となった。

　その中には多くの著名なマフィアも含まれていた。

　アンジェロ・ラ・バルベーラは22年、トマゾ・ブシェッタは14年の刑を言い渡された。

　これらの刑は、マフィア的な殺人行為で被害者の遺体を故意に隠す「ルパラ・ビアンカ（いわゆる「白い死」）」と呼ばれる2件の殺人で執行された。

　テラノーヴァは、

　　　シチリア・マフィア委員会

の存在を初めて認めた人物でもある。

　彼の知識は、1963年5月28日付の

　　　カラビニエリの機密報告書

によって裏付けられた。

　この報告書では、秘密情報提供者が、パレルモ市出身者6名、残りは州内の町出身者で、「それぞれがグループまたはマフィア・ファミリーのボスの地位にある」15名で構成される委員会の存在を明らかにした。

　テラノーヴァ判事は、委員会の存在がマフィアが

　　　緊密に統合された組織

であることを意味するとは考えていなかった。

　テラノーヴァは、マフィアと政治のつながりに関する捜査を主導した。

　彼は、シチリアの著名な政治家

　　　サルヴァトーレ・リマ

がパレルモ市長として行った活動を調査した結果、リマが

　　　アンジェロ・ラ・バルベーラ

を含む複数のマフィアと結託していたと結論付けた。

　1964年の起訴状で、テラノヴァは「アンジェロとサルヴァトーレ・ラ・バルベーラ（パレルモ地域の著名なボス）は…サルヴァトーレ・リマ前市長と知り合い、便宜を図るような形で関係を維持していたことは明らかである…パレルモの第一市民であった人物とラ・バルベーラ・マフィアが紛れもなく接触していたことは…公的生活の様々な分野にマフィアが浸透していたことを裏付けるものである。」と記している。

　しかし、彼の調査や告発は実を結ばなかった。

　テラノーヴァは、コルレオーネ・マフィア・ファミリー（通称コルレオーネ・ファミリー）のボス

　　　ルチアーノ・レッジョ

を裁判にかけるという野望を隠そうとはしなかった。

　1965年、テラノーヴァは、1958年から1963年にかけてコルレオーネで起きた一連の殺人事件の容疑で、レッジョを含む60人以上のコルレオーネ・マフィア・ファミリーの訴追を命じた。

　最も著名な被害者は、コルレオーネのボス

　　　ミケーレ・ナヴァーラ

であった。

　1969年6月10日にバーリ裁判所で下された判決は、被告64人全員の無罪判決となった。

　陪審はレッジョを1948年の穀物窃盗罪で有罪とし、執行猶予付きの判決を下した。

　ただ、プラシド・リッツォットとナヴァーラの殺害を含むその他の罪状については無罪となった。

　裁判官と検察官は、殺害をほのめかす匿名の手紙を受け取った。

　最終的にレッジョの後継者となった

　　　サルヴァトーレ・リーナ

は1969年に無罪となり、1993年に逮捕されるまで逃亡を続けた。

　コルレオーネシ一家は、チャクッリ虐殺につながっ第一次マフィア抗争に関する114人裁判で起訴された。

　この裁判でもテラノーヴァが準備したものです。裁判準備のための尋問中、レッジョは質問への回答を拒否した。

　ある質問に対し、レッジョが自分の名前も両親の名前も思い出せないと答えた。

　テラノーヴァは書記官に「レッジョは自分が誰の子なのか知らないと書いてください」と指示した。

　レッジョは自分が私生児であると示唆されたことに激怒した。

　この事件は、レッジョがテラノーヴァに深く憎悪を抱くようになったきっかけとなった。

　テラノーヴァは妻に「レッジョは口から泡を吹いていました。もし可能なら、その場で私を殺したでしょう」と語っている。

　検察側は、カタンツァーロ裁判でレッジョを無罪とた。

　ただ、1970年に欠席裁判にかけた判決に対し、控訴に成功した。

　この裁判ではレッジョは有罪となったが、裁判を待つ間の拘留期間が既に経過していたため、カタンツァーロ裁判後に釈放された。

　レッジョが再び逮捕され、拘留されたのは1974年になってからだった。

　裁判を通じたマフィアとの闘いに失敗した後、テラノーヴァは戦略を転換した。

　1972年5月、彼は

　　　イタリア共産党（PCI）の支援

を受けた独立左派から

　　　イタリア議会議員

に選出された。

　彼は、チャクリ虐殺事件後の1963年に設立された

　　　反マフィア委員会

の事務局長に就任した。

　彼は1976年に再選された。

　テラノヴァはPCI副議長の

　　　ピオ・ラ・トーレ

と共に、1976年の反マフィア委員会の少数意見報告書を執筆した。

　マフィアと有力政治家、特にキリスト教民主党（DC - Democrazia Cristiana）とのつながりを指摘した。

　キリスト教民主党の

　　　ルイジ・カラーロ

が委員長を務める委員会の多数派は、テラノヴァとラ・トーレが提案した修正案の採用を拒否した。

　このため、二人は少数意見報告書の公表を決定した。

　テラノヴァは多数派の同僚たちに責任を取るよう促した。

　公表された少数意見報告書によれば、「…マフィアと政治のつながりが排除されたという理論を委員会が受け入れることは重大な誤りである。今日においても、市議会および州議会の運営における支配的なDCグループの行動は、マフィアの権力体制の存続に最も好都合な土壌を提供している。」との記述であった。
　反マフィア委員会の報告書と文書は実質的に無視された。

　テラノーヴァは反マフィア委員会の「13年間は無駄だった」と語り、再選を求めなかった。
　ローマで7年間過ごした後、1979年6月の議会閉会時に、チェーザレ・テラノーヴァは司法への復帰を求めた。

　彼は再びパレルモ裁判所の主任検察官に任命され、裁判所でマフィアと闘うこととなった。

　彼は妻に「心配するな」「彼らは裁判官に手を出す勇気もないし、私にも手を出すつもりはない」と言った。

　しかし、1979年9月25日、当時58歳だったテラノーヴァは、ボディガードを務めていた運転手で警察官の

　　　レーニン・マンクーゾ

と共に、車の中で射殺された。

　テラノヴァの捜査能力とローマで新たに築いた

　　　政治的コネクション

は、彼をマフィアにとって以前よりもさらに手強い敵に仕立て上げた。

　テラノヴァの地位を奪ったのは

　　　ロッコ・チンニチ

だったが、彼は1983年にマフィアに殺害された。

　獄中にあった

　　　ルチアーノ・レッジョ

は、1960年代の

　　　尋問で受けた侮辱への復讐

として、テラノヴァの殺害を命じた。

　なお、この殺害はマフィア委員会によって承認されていた。

　テラノヴァはレッジョとコルレオーネシにとって最悪の敵となっていた。

　彼のオフィスには、同僚が冗談でくれたレッジョの写真が飾られていた。

　レッジョはテラノヴァの殺害を命じた罪で起訴されたが、1983年にレッジョ・カラブリアで行われた最初の裁判でも、1986年の控訴審でも証拠不十分で無罪となった。